【獣医師執筆】
旅先での出会いとそのかかわり方
愛犬を連れての旅行、他のわんちゃんや人、はたまた野生動物に出会うことがあるかもしれません。そんなときのためにちょっと気に留めておいていただきたいことをお話します。
他のわんちゃんと遊ばせたい
生活環境やお散歩に行く時間帯等々の理由で、普段は他のわんちゃんと出会うことがほとんどない、でも今は旅先で愛犬とゆっくり過ごす時間もたっぷりあるし他のわんちゃんも沢山いるからと飼い主さんは『またとない機会だから、他のわんちゃんと遊んでもらおうかしら』と思われるかもしれませんね。
ただこれは危険な試みで、ほとんど他のわんちゃんを見たことすらない愛犬にとって『他のわんちゃん』がどのような存在かも分からないでしょうし、『他のわんちゃんと遊ぶ』ということが全く分からないでしょう。それを踏まえずにいきなり愛犬を他のわんちゃんと遊ばせようとするのは、練習なしでピアノ発表会の舞台に乗せるようなものです。他のわんちゃんと引き合わせても愛犬は竦んで固まってしまうことでしょう。
飼い主さんの理想と現実
愛犬が他のわんちゃんと遊べなかったことにガッカリされるかもしれませんが、では飼い主さんご自身は、犬同士が遊ぶ様子をご存じでしょうか。わんちゃん同士が追いつ追われつほのぼのと追いかけっこをするといったシーンを想像されるかもしれませんが、実際にわんちゃん同士が遊んでいる様子は、激しく取っ組み合いをして、ほぼケンカ、ヒートアップしてしまうと100%ケンカという状態になることが多々あります。遊びだかケンカだか分からない状態を、目の当たりにした飼い主さんは本当にビックリされると思います。ほどほどのところで遊びを終了させるには、飼い主さん同士の意思の疎通とわんちゃんを落ち着かせる技量も必要となります。
飼い主さんご自身が、わんちゃん同士の遊びをよく理解し、遊ばせるために必要なお膳立てが整えてあげられないと、わんちゃん同士を遊ばせるのは難しいかもしれません。
おやつの扱いには要注意
コミュニケーションツールとしておやつを利用されている飼い主さんも多いかと思いますが、わんちゃんが集まる場所ではおやつの扱いは要注意です。
アレルギーやしつけの問題があるので、他のわんちゃんに勝手におやつをあげてしまう方はさすがにいないと思いますが、他のわんちゃんもいる場所でご自分の愛犬におやつ(しつけのご褒美を含む)をあげれば、他のわんちゃんも自分ももらえると寄ってきてしまうことを頭に置いておいてください。他のわんちゃんにはあげる気はなくても、おやつの袋ごと持っていかれたり、愛犬の食べこぼしを食べてしまったりということが起きます。動物にとって食べるという行為は生きていく上で重要なことですので、「食べられるものがあれば食べる」というのは普通におきてしまうことなのです。ですので、他のわんちゃんのいる場所ではおやつの管理は厳重に、臭いが漏れないよう密閉容器に入れて、バッグの奥にしまっていただくことをお勧めします。
愛犬や他のわんちゃんがしそうなことは、飼い主さんが先読みして問題が起きないだろう対応を常に心がけていただければなぁと思います。
愛犬が人も他のわんちゃんも苦手な場合
飼い主さんが注意して、他のわんちゃんや人との距離さえ保てば、愛犬が問題無く過ごすことができるのなら、それでよいと思います。また、他のわんちゃんが人や他のわんちゃんに対して神経質そうであれば、こちらからも距離が保てるように協力してあげるといいと思います。
いろいろな生い立ちのわんちゃんがいます。すべてのわんちゃんが、適切な時期に社会化が行えるわけではありません。愛犬が人の社会の中で他者になるべく迷惑をかけず、また自身のストレスも極力抑えられるよう、できないことは飼い主さんが補ってあげていただければと思います。
もちろん、継続した社会化のための訓練は必要です。
野生動物に出会ってしまったら
最近は、都市部のベッドタウンでもタヌキやハクビシンなどの野生動物が目撃されています。自然豊かなところであれば、野生動物はいて当たり前と思って行動されることをお勧めします。
愛犬を連れて歩くときは、少し遠くまで注意を払い、野生動物と思われる影等が見えたらその場所には近づかないよう、道を変える・今来た道を戻るなど愛犬と野生動物が対面しない方法を取ってください。また、蛇などがいることがあるので愛犬が藪の中に首を突っ込んだりしないように、リードの長さなどに注意してください。
もしも、愛犬と野生動物が出くわしてしまったら、決して吠え付かせたりせず、視線を合わせないように後ずさりして安全な距離まで離れてください。たとえその野生動物が小さくて弱そうでも「窮鼠猫を噛む」の例えのとおり反撃を受けることもありますし、親や仲間がいるかもしれませんので、逃げる野生動物を追いかけるようなことは絶対にしないでください。
万が一、噛まれてしまった場合は、速やかに動物病院で診察を受けてください。また、その時は噛まれたように見えなくても後日具合が悪くなった場合は、獣医師に野生動物(に接触した旨必ず伝えてください。
旅先での出会い、それは素敵なことです。でもそれは意図してできることではないと思いますので、愛犬と他のわんちゃんや人との距離感を見極めながら楽しい旅を過ごし下さい。
執筆者プロフィール
田邊 弘子
獣医師(DVM MS)、日本ヒューマン・ドッグウォーキング協会理事
一般企業から動物病院、ドッグフードの通信販売会社勤務を経て、犬の飼育についての理解を深めることを目的とした飼い主向け情報誌の製作などを行う。
<人と暮らす犬が幸せになれるように><犬と暮らす人が幸せになれるように>をモットーに、多くの飼い主へ情報を発信している。
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