マイシッポコラム-愛犬旅を充実させる情報集-

【ドッグ・トレーナー監修】
楽しい犬連れ旅、愛犬のストレスへの配慮も忘れないで!

犬と暮らす中で、愛犬と一緒に旅行に行ってみたいと思う人は多いのではないでしょうか。
日常を離れた場所で見せる愛犬の姿にほっこりしたり、笑ったり。時には愛犬の違った一面を目にし、新しい発見になることもあるでしょう。

しかし、旅にはストレスもつきもの。
気づいていますか? 愛犬が感じるストレスを。
愛犬のストレスにも配慮して、より楽しい犬連れ旅にしましょう。

旅で感じる犬のストレスとは?

犬は私たちが思っている以上に繊細な動物です。ちょっとしたことでお腹を壊したり、元気がなくなったり。そうした中で、旅の途中で犬が感じ得るストレスにはどんなものがあるのでしょうか?
たとえば・・・

1. 初めての場所、慣れない環境
初めてのものや場所、慣れないことにストレスを感じるのは人でも犬でも同じです。
2. 人混み、知らない人、他の犬
特に人馴れしていない犬、他の犬が苦手な犬にとってはストレスになるでしょう。人・犬馴れしていても他の個体と一定の距離が保てない、知らない人に過度に触られるなどはストレスになることがあります。
3. 乗り物
車や電車の振動やスピード感などがストレスになることも考えられます。特に車酔いする犬では、車に乗ること自体がストレスと感じるでしょう。
4. 匂い
好みでない匂いを不快と感じるように、車や電車などの車内臭、宿の部屋の匂い、場合によっては飼い主さんがつけている香水の匂いなどにストレスを感じることも。
5. 音
他の犬の吠え声や、花火、雷、爆発音などの大きな音、連続音、乗り物の走行音や金属音など、音にストレスを感じることもあります。
6. 気温、寒暖差
暑さ、寒さ、寒暖差があり過ぎるなど、気温がストレスとなることもあります。

しかし、これらばかりでなく、犬にとって初めてのこと、普段の習慣とは違うことはすべてストレス要因になり得ると考えたほうがいいでしょう。

犬の「ストレス」の注意点

次に、ここでは一口に「ストレス」と言っても気をつけたいことや、知っておきたいことがあるというお話をしておきたいと思います。

注意点❶ ストレス要因や感じ方は犬それぞれ

たとえば、雷が平気な犬もいれば、怖がる犬もいるように、犬にとって何がストレスになるか、また、その感じ方や強さは犬それぞれです。
普段から愛犬がどんなものにストレスを感じ、どのように反応するのかなど把握しておくといいでしょう。

注意点❷ 犬が出す「ストレスサイン」を知っておこう

犬がストレスを感じた時に表す仕草や行動(ストレスサイン)、および症状がいくつか知られています。それらを知っておくことは、愛犬がストレスを感じている時の参考材料になります。

犬がストレスを感じた時に表すストレスサインや体の変化の例

仕草や行動
✔ あくびをする
✔ 体を掻く
✔ 鼻先を舐める
✔ 震える
✔ 落ち着かない、うろうろする
✔ 体をぷるぷる振る
✔ 動作がゆっくりになる
✔ 体が固まったように動きを止める
✔ 逃げようとする
✔ 呼吸が速くなる(パンティング)
✔ 眉尻を下げて嫌そうな表情をする など
体の変化
✔ 食欲が低下する、食べない
✔ 嘔吐や下痢が見られる
✔ 排尿排便をしなくなる など

注意点❸ 原因がストレスとは限らない、状況判断を

上記のような仕草や行動、体の変化が見られたからといって、その原因がストレスとは限りません。
たとえば、体を掻くのは単純に体が痒いだけかもしれません。眠くてあくびをするのは自然なことですし、震えるのはケガの痛みや病気、寒さなどが原因のことも。また、嘔吐や下痢などが見られる時は、何らかの病気である可能性も考えられます。

ですから、ストレスサインが見られたからと短絡的に捉えず、その時の状況をよく観察して判断しましょう。

注意点❹ 愛犬が出すストレスサインを把握しておこう

上記の例にあるような行動が、旅の途中でも不安や恐怖、欲求不満、葛藤などを感じる状況で発現する可能性があります。
それが長続きするようであれば、飼い主さんが対処する必要がありますが、そのためには愛犬が出すストレスサインが普段より多いのか、少ないのか判断しなければなりません。

要は、愛犬の普段の様子を日々観察し、ちょっとした変化を見逃さないことが大事になるというわけです。

その他、その犬によって癖のように見られがちなストレスサインがあるのではないかとの考え方もあるので、あくびをする、鼻先を舐めるなど、愛犬はどんなストレスサインを出しやすいのかも把握しておくといいでしょう。

旅で愛犬がストレスを感じていたら

では、せっかく旅に出たものの、愛犬がストレスを感じており、対処が必要と思える場合はどうしたらいいのでしょうか?

その答えは、一時的にストレスの元となるものを避け、気分転換させること。簡単な方法ですが、これがもっとも有効です。また、ストレスの程度により、おやつを食べさせるなどしてその状況に慣らすことが可能な場合もあります。

【ケース1】 宿併設のドッグランに連れて行くとあくびを連発し、震えている
⇒他の犬が怖いのかもしれません。周辺の静かな場所で散歩してはいかがでしょう? その後、愛犬が落ち着き、再びドッグランに行っても強いストレス反応を示すようであれば、そこの利用は諦めるしかないでしょう。
【ケース2】 宿に着き、ケージに入れたところ、うろうろ歩き回って落ち着かない
⇒慣れない場所で緊張しているのかもしれません。大きめのバスタオルやブランケットなどをケージにすっぽり被せることで少し落ち着くことがあります。
【ケース3】 目的地に着いたものの、ごはんを食べない
⇒食欲低下は不安の他、疲れが原因のことも。水は飲み、元気はあるなら、様子を見ても大丈夫でしょう。ただし、水も飲まず、元気がない、2日目以降も食べない、熱があるなどの場合は病気の可能性もあるので、近場の動物病院で診てもらうことをおすすめします。
【ケース4】 宿に着いてからトイレをしない
⇒不安や緊張が強いのかもしれません。便が2~3日出ない場合は便秘と考えられますが、尿が1日出ない場合は膀胱炎になる可能性も出てきます。水分を与え、愛犬が落ち着ける静かな場所で排泄を促してみてください。それでも出ない場合は、念のため動物病院へ。

克服できるストレスもある

以上、旅でのストレスは心配にもなりますが、状況によってはストレスを克服できる場合もあります。

たとえば、車が苦手な犬の場合、車で近くの公園や河川敷などへ散歩に行くようにし、徐々に距離を延ばしてドライブ大好きの犬に変身させた例はよくあります。
コツは、着いた先に犬にとっての“楽しい”があること。

また、どうしても他の犬や人が苦手な愛犬のために、敢えて人や犬がいない時期や場所を狙って旅行に行くようにし、落ち着いた旅ができるようになったという例もあります。
この場合は克服と言うより、発想の転換ですが、愛犬との旅を楽しみたいのであれば、時にトレーニングや視点を変えることも必要になるのではないでしょうか。

楽しい犬連れ旅にするための秘訣

最後に大事なことをもう二つばかりお話しておきましょう。

◎ ストレスの対処には、なにより社会化が大切!

犬のストレスと関連するのが社会化です。
社会化とは、犬が犬として生きていく中で必要となるあらゆること(人や動物、もの、音、出来事など)に対し、適切な行動がとれる、つまり、人間社会に順応できる能力を身に着けることを言います。

この社会化が不十分な犬はストレス耐性が低い傾向にあると言われますが、フィンランドで行われた犬の恐怖症の要因に関する研究でも、犬が“怖がり”になる可能性が高くなる要因の一つとして社会化不足(この研究では生後7~16週相当)を挙げています。
加えるなら、小型犬、メス犬、避妊去勢済の犬、トレーニングやアクティビティの経験があまりない犬もその要因になり得るという結果でした。(※1)

不安や恐怖はストレスと直接的に関係します。
つまりは、犬との旅を楽しみたいと思うのならば、子犬期の社会化に励み、人や犬、音、車(移動が車の場合)などいろいろなものに慣らしておきましょう。
さらにはクレートや、飼い主さんと離れても落ち着いていられるようトレーニングしておくとベストです。

◎ 飼い主さんが犬をリードすることでストレスに対処しやすい犬に育てる

犬が強いストレスを受けているのに、飼い主さんが解決策を何も提示せずにいると、犬は自分でそのストレスに対処するしかありません。その結果、吠えることで嫌なことが解決できたとなれば、その犬はストレスを感じる度に吠えるようになる可能性もあります。

たとえば、ドッグカフェで愛犬をリードに繋ぎ、そのままフリーにしているとそわそわと落ち着きがない場合、持参したマットの上で伏せているように指示をします。こうすることで犬が安心感を得て、不安が解消できるようにリードするのです。

簡単なことですが、このようなことを続けていく中で、犬は 「ちょっと不安だけど飼い主さんの言うことを聞いていれば大丈夫!」と徐々に飼い主さんを頼るようになり、多少のストレスがあっても飼い主さんへの信頼から安心していられるようになるとの考え方があります。

こうした関係を築くまでに時間はかかりますが、犬連れ旅は普段の生活の延長線上にあるものと考えれば、日常からすでにその準備は始まっているのです。

まとめ

犬は自ら旅行に行きたいと望むわけではありません。彼らが望むのは、「飼い主さんと一緒にいたい」、ただそれだけでしょう。

言ってみれば、犬連れ旅行は飼い主さんの希望です。だからこそ、愛犬の健康やストレスにも配慮して、互いが楽しめ、想い出に残る旅にお出かけください。

参照:(※1)Puurunen, J., Hakanen, E., Salonen, M.K. et al. Inadequate socialisation, inactivity, and urban living environment are associated with social fearfulness in pet dogs. Sci Rep 10, 3527 (2020). https://doi.org/10.1038/s41598-020-60546-w

監修者プロフィール

三井翔平(正平)
スタディ・ドッグ・スクール®所属ドッグ・トレーナー、学術博士

麻布大学大学院獣医学研究科博士後期課程にて、犬と人のコミュニケーションにおける内分泌について研究を行い、博士号を取得。2016年には、世界的なドッグ・トレーナーの資格である CPDT-KA(Certified Professional Dog Trainer - Knowledge Assessed)を取得している。飼い主へのしつけ指導はもちろん、自治体主催のセミナーや専門学校の講師、テレビ番組出演、専門書での執筆など多方面で活躍中。
スタディ・ドッグ・スクール®

執筆者プロフィール

大塚良重
犬もの文筆家、ドッグ・ライター

犬の専門雑誌や書籍、Web、新聞、企業誌などで執筆を続けて30年近い。テレビ番組の制作協力やラジオ番組出演なども。もっとも興味のあるテーマは、「人と犬との関係」「ペットロス」「老犬介護」。自著に難病をもった少女と愛犬の関係を描いた「りーたんといつも一緒に」(光文社)がある。信条は、「犬こそソウルメイト」。この道へと導いてくれた愛犬を一筋に想う一犬好きである。